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「無料のエフェクトじゃダメって、よく見るのはなぜですか」。ミックスの相談を受けていた頃、いちばん多かった質問のひとつです。私はいつも、付属のエフェクトは縛りプレイだと考えてください、と答えていました。
以前、ココナラでミックスのアドバイスをするサービスをやっていました。一般の方から、使っているソフトと機材、歌詞のデータ、WAVファイルが届きます。それを聴いて、どんなミックスにしたいのかを伺い、何が足りないのか、どういう処理をすればいいのかをお伝えする、という内容です。
そこでよく話題になったのが、「何のエフェクトをかければいいのか」と「有料と無料のエフェクトに違いはあるのか」でした。
最初に伝えていたのは、エフェクトの話ではなかった
相談をくださる方の曲は、かなりの確率でクオリティが高いものでした。自分で曲を完成させて、ミックスまでやって、そのうえで「なんかうまくいっていない」と気づける段階の方です。耳がもう育っています。
なので最初に、そのことをお伝えしていました。個人で音楽を楽しむ範囲で言えば、その枠はもうぱんぱんに満ちています。十分どころか、十二分です。音質が気になって曲の中身が入ってこない、ということは一切なくて、聴けば「ああ、こういう曲なんだな」がまず伝わってきます。
そのうえで、商業的に成功している音楽に近い音質を目指したいのであれば、まだ手を入れる余地があります、という話をしていました。このあたりは同じサービスで気づいた、目標値の話にも書いています。
そこから「どんなエフェクトを使っていますか」と伺います。こういう方は、たいてい有料のエフェクトを使っていました。使い方で足りないところがあれば、こう使うといいですよ、とお伝えします。私が作ったプリセットが使えるエフェクトを偶然お持ちだったときは、プリセットをお渡しして「ちょっと使ってみてください」とお願いすることもありました。
付属のエフェクトは、何でもできるハードモード
たまに、付属のエフェクトだけでミックスしたけれどうまくいかない、という相談が届きます。そのときに話していたのが、縛りプレイの考え方です。
ソフトに付属しているエフェクトは、何でもできるように作られています。EQもコンプもリバーブも、一通りそろっています。できないことは、実はほとんどありません。
ただ、ゲームで言えばハードモードです。
有料のエフェクトは、お金を払った分、最初からいい音になるように作り込まれています。挿してつまみを少し回すだけで、一発でそれらしい音になる。付属のエフェクトでも、同じところまでたどり着くことはできます。ただ、その分だけ手数が増えます。
つまり、付属のエフェクトを使うにはテクニックが必要で、有料のエフェクトを使うにはそこまでテクニックがいりません。そして、テクニックがある状態で有料のエフェクトを使えば、もっといい音になります。
なぜ手数が変わるのか
この差がどこから来るのかを、構造で考えてみます。
付属のエフェクトは、多くの場合「素直」に作られています。EQなら、指定した帯域を指定した分だけ上げ下げする。コンプなら、設定したとおりに音量を抑える。余計な色をつけないので、どんな素材にも使えます。そのかわり、「いい感じの音」にするための味付けは、すべて使う人が自分で足すことになります。
一方で有料のエフェクトの多くは、作った人の「こういう音がいい音だ」という判断が、最初から中に入っています。かけるだけで少し倍音が足されたり、つまみを回したときの効き方が、ちょうど気持ちいいカーブになっていたり。名機の再現をうたうものなら、その機材を通したときの癖ごと再現されています。
言い換えると、有料のエフェクトを買うのは、作った人の判断を買うことでもあります。付属のエフェクトでは、その判断を自分で一つずつ組み立てなければいけません。手数が増えるのは、そのためです。
なので「無料じゃダメ」ではなく、「無料だと、判断を自分で全部やる必要がある」と考えるのが正確だと思います。ここが分かると、次に何をすればいいかが自分の中で見えてきます。技術を磨くのか、判断を買うのか。どちらを選んでも、前には進めます。
実際、付属のプリセットだけで1曲作ってみたときも、たどり着けはするけれど、組み合わせを探す手間はかかりました。
最初に何を買うか:答えはだいたいドラム音源
「エフェクトや音源を買おうと思っているけれど、何を買えばいいか分からない」という相談もよくありました。そのときは、だいたい「ドラムです」と答えていました。
付属のドラム音源は、たいていスカスカです。そして、ドラムの音と打ち込みを変えると、曲の良さが一気に変わります。手を入れたときの変化がいちばん大きいのが、ドラムなんです。
これにも構造的な理由があると思っています。
ひとつは、ドラムが鳴っている範囲の広さです。キックの低音から、スネアの中域、ハイハットやシンバルの高域まで、ドラムだけで音域の上から下までを使っています。ドラムが変われば、曲全体の土台が変わります。
もうひとつは、鳴っている時間の長さです。ボーカルは歌っているところでしか聴こえませんが、ドラムはイントロから最後まで、ほとんど休まず鳴り続けます。曲の印象を決める時間が、いちばん長い楽器です。
そして、有料のドラム音源は、録音の段階で何本ものマイクを使い、音作りまで済ませた状態で収録されていることが多いです。先ほどの話で言えば、「判断」が最初から最も多く入っている買い物になります。
広く、長く鳴っていて、しかも判断がたくさん詰まっている。だから最初の1本として、ドラム音源は効果が大きいのだと思います。
余談:ボーカルの相談は、録音機材の話になりがちだった
私自身がボーカリストで、歌ってみたのミックスもよくやっていたからか、ボーカルの録音についての相談もたくさん届きました。いちばん多かったのは、マイクとオーディオインターフェースは何を買えばいいか、という質問です。
この話をすると長くなるので、また別の記事で書こうと思います。ひとつだけ先に書いておくと、私は機材を「出費」としてだけ考えないほうがいい、と答えていました。


