読了目安:約5分
少し前まで、文庫本にはA4のコピー用紙を自分で折って巻いていました。手汗が多い体質で、本をそのまま持っていると、表紙がどんどん湿っていくからです。
カバーなしで読むと、表紙も裏表紙もベタベタになります。長く持っていると表紙の印刷がはげてきて、そこから汗が染み込み、本全体がヨレヨレになっていきます。コピー用紙のカバーはそれを防ぐための応急処置でしたが、紙なので、すぐにこちらもヨレヨレになります。これはいらないなと思い、市販のブックカバーを使うようになりました。
それでも先日、結局ブックカバーを自分で作ることになりました。作ってみて、なぜ「ちょうどいいもの」が売っていなかったのか、その理由がはっきりしました。
ハヤカワ文庫だけ、合うカバーがない
普段使っているのは、ビニール素材のブックカバーです。汗を通さないので、私の用途にはちょうどいい。
困ったのはハヤカワ文庫でした。私はSF小説が好きで、ハヤカワ文庫をよく読みます。ところがハヤカワ文庫は、ほかの文庫に比べて背が高いのです。普通の文庫用のカバーでは収まりません。
しかも、次に読みたかったのは、逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』でした。600ページを超える厚い本です。背が高く、しかも分厚い。この条件で、ちょうどいいビニールのカバーが見つかりませんでした。
探すより、作る方が楽だった
ここで、家に帆布の在庫があることを思い出しました。私は帆布とレザーが好きで、販売用の製品も作っています。帆布は触り心地が良く、ミシンもある。家にあるもので、どうとでもなります。
探して、比べて、買って、届くのを待つ。その手間と比べたら、作る方が楽でした。
設計は自分でしました。といっても、ハヤカワ文庫の寸法を調べたわけではありません。『同志少女よ、敵を撃て』そのものを測って、その本から型を起こしました。
型紙は、手の中の1冊にあった
構造は、ごく定番のブックカバーと同じです。表紙を差し込む部分を折り返して作る、よくあるタイプです。ただ、600ページを超える本から型を起こしているので、それより薄い本なら何でも入ります。
作業時間は、全部で1時間くらいでした。試作はしていませんし、作ったあとで手直ししたところもありません。
ここで気づいたのは、既製品が合わなかった理由です。売り場に並ぶブックカバーは、たくさんの人に売るために、平均的な文庫の高さと、平均的な厚みに合わせて作られています。素材も、多くの人にとって無難なものが選ばれます。
私の条件は、その平均から3つ外れていました。背の高いハヤカワ文庫であること、600ページを超えること、手汗が多いこと。1つずつなら対応する商品もあるかもしれませんが、3つ重なると、市場からちょうどいいものが消えます。
一方で、その3つの条件を一番正確に知っているのは私です。しかも型紙は、測るまでもなく、手の中にある1冊そのものでした。条件が平均から外れている人ほど、探すより作る方が早い。今回はそういう構造だったのだと思います。
余談:5mmの縁
1つだけ工夫したところを挙げるなら、布の端の処理です。帆布は切りっぱなしにするとほつれるので、端を内側に2回折り返して縫い、どこからも糸がほつれないようにしています。
ただ、これは布を扱う人にとっては当たり前のことなので、わざわざ大きな声で言うほどの話ではありません。
ひとつ想定外だったのは、その折り返しの幅が5mmだったことです。この5mmの縁に、ハヤカワ文庫の高さがぴったりはまりました。縁がちょうどガイドのような役目をして、本がカバーの中で落ち着きます。狙ったわけではなく、当たり前の処理をしたら、たまたま寸法が合いました。
2冊目でも、ちょうどよかった
結果的に、かなり好みのブックカバーになりました。
『同志少女よ、敵を撃て』を読み終えて、次は同じハヤカワ文庫の、伊藤計劃さんの『ハーモニー』に進みました。600ページより薄い本ですが、折り返しの差し込みがうまく働いて、程よく収まっています。コットンの帆布なので、汗を吸っても洗濯できます。ビニールのカバーにはできないことです。
自分の困りごとに合わせて作ったら、思っていたよりちゃんとした製品になりました。背の高い文庫を読む人も、手汗に悩む人も、きっと私だけではないはずです。売ってもいいかもしれない、と今は少し考えています。


