プロジェクトファイルは「保存」ではなかった。数年前の未発表曲を開いたら、プラグインが赤字で並んでいた話

プロジェクトファイルは「保存」ではなかった。数年前の未発表曲を開いたら、プラグインが赤字で並んでいた話

読了目安:約5分

数年前に作った曲のプロジェクトファイルを開いたら、プラグインの名前が赤い文字で並びました。「プラグインが見つかりません」。鳴るはずの音源が、再生しても鳴りません。

今、2020年以降に作った曲を10曲ほど、販売用に整え直しています。どれも作りきってはいたものの、発表しないまま眠らせていた曲です。仕上げ直すだけなら大した作業ではないと思っていました。その見積もりが甘かった、という話です。

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バージョン違いは問題ではなかった

最初に心配したのは、Studio One本体のバージョン差でした。当時のバージョンで作ったファイルを今のバージョンで開くと、新しい形式に更新することになります。更新すると元には戻せませんが、そこを受け入れてしまえば、本体側で困ることはほとんどありません。

厄介だったのは、曲の中で使っていたプラグインの方です。

赤字のプラグイン:Neutron、Ozone、Kontakt

私はiZotopeのプラグインを好んで使っています。当時はNeutron 3でしたが、今はNeutron 4です。Ozoneも、当時の9や10から、今は11になっています。しかも途中でPCを買い替えていて、古いバージョンは新しいPCに入れていませんでした。プロジェクトを開くと、そこに書かれたプラグインがそもそも存在しないので、名前が赤字で表示されるわけです。

音源も同じでした。Kontaktは当時の5から、今は8になっています。昔の音源を鳴らしていたトラックは、音が出ませんでした。

結局、1曲ごとにプラグインを今のバージョンに差し替え、音の出ない音源を差し替え、昔組んだエフェクトを組み直すことになりました。元の状態に戻すだけで1曲あたり約1時間。そこからアレンジを直して仕上げるまでに、さらに4時間ほどかかっています。

プロジェクトファイルは曲ではなく指示書だった

作業しながら、プロジェクトファイルの正体を勘違いしていたことに気づきました。

私はプロジェクトファイルを「曲の保存データ」だと思っていました。でも実際に書かれているのは、どのプラグインをどの順番で挿し、どの音源のどの音色をどう鳴らすか、という指示だけです。音を作っている本体は、プラグインや音源として、ファイルの外に置かれています。料理でたとえるなら、レシピは手元に残っているのに、材料を売っていた店が閉まっている状態です。

外にある材料は、時間が経てば必ず変わります。プラグインはメジャーアップデートされ、音源のフォーマットは新しくなり、PCは買い替えられます。プロジェクトファイルは、作った当時の環境がそろっているときにだけ正しく動く指示書です。環境から切り離しても鳴るのは、実際に書き出された音、つまりWAVの方だけです。

なぜmp3しか残さなかったのか

手元に残っていたのは、2ミックスのmp3だけでした。トラックごとのパラデータは、1曲も書き出していませんでした。

理由ははっきりしています。ストレージを圧迫したくなかったからです。私は音楽のほかに動画とデザインの仕事もしていて、保存するのは確定した素材だけにしたいと考えていました。趣味で作ったような曲は、どうしても後回しにする癖があります。

ただ、今回の作業のあとで計算し直すと、この判断は割に合っていませんでした。3分半のステレオのWAVを24bit・48kHzで書き出すと、1トラックあたり約60MBです。1曲30トラックあったとしても約1.8GB、10曲で約18GB。一方で、元の状態に戻すだけで1曲1時間、10曲で10時間かかっています。18GBの空きで10時間を買えたと考えると、かなり安い買い物だったはずです。

パラデータのWAVさえあれば、プラグインがなくなっていても、その音を手がかりにして音質や音色を再現できます。当時の音と並べて比べながら、さらに磨くこともできます。

余談:一番上達していたのは仮歌だった

作り直しで一番大きかったのは、実はボーカルの歌い直しでした。

昔の曲を聴き返して、はっきり差が出ていたのは編曲の腕ではなく、自分の仮歌の方です。編曲家としての数年より、仮歌を歌う人としての数年の方が、分かりやすく音に出ていました。

時間を空けたから見つかったもの

mp3しか残さなかったことには、救いもありました。

昔のmp3を聴き直すと、思っていたよりちゃんとした音質で、意外と普通に聴けたのです。そのうえで、細かいところに直す余地がいくつも見つかりました。作った直後の耳では気づけなかった部分です。期間を空けたことで、自分の曲を少しだけ他人の曲のように聴けたのだと思います。

今は楽曲を販売しているページに、曲のデータとステムが全部残る仕組みになっているので、これから出す曲は細かいデータまで保存されていきます。

問題は、販売の予定がない曲です。リリースしないから、趣味だから、と後回しにした曲ほど、数年後に開いたときには周りの環境ごと消えています。完成したら、発表するかどうかに関係なく、パラデータをWAVで書き出しておく。赤字のプラグイン名を10曲分眺めた人間からの、実務的なお願いです。

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