歌が上手くなくても成立する編曲方法について

読了目安:約7分

先日、R&Bの女性ボーカル曲のフルアレンジを担当しました。リファレンスとして渡された楽曲は、音数がかなり少なく、正直に言えばチープな印象で、ボーカリストの技量にかなり寄りかかった構成でした。歌が抜群に上手い人が歌うことを前提に、楽器はあえて引き算されている作りです。

ここで、少し気になったことがありました。もし実際に歌う人の歌唱力が、リファレンスのボーカリストほど突出していなかった場合、この曲の魅力はどうなるのか。楽器が少ない分、曲の良し悪しがほぼ歌唱力だけに依存してしまいます。これはリスクが高い設計だと感じました。

コーラスワークについては編曲側への指示が特になかったので、ボーカルの重ね方で解決するのではなく、楽器構成の側で対応することにしました。

具体的には3つ手を入れています。まず、ハイハットです。リファレンスではシンプルな8分音符が刻まれているだけでしたが、これをトラップ由来の刻み方に変えました。次に、サビの部分に、いわゆるR&Bらしさの強いパーカッションを足しています。そして、曲のキメの部分には、シンセのワンショットを薄く重ねました。これは注意して聴かないと気づかないくらいの音量ですが、あるとしっかり厚みを感じ、無いと途端に軽く聞こえる要素です。


これをやりながら思ったのは、編曲という作業の一部は、歌唱力という不確定な変数に対する保険をかける作業でもあるということです。

同じ曲なのに、カラオケや弾き語りで聴くと魅力が半減してしまう曲もあれば、誰が歌ってもそれなりに聴かせられてしまう曲もあります。この違いは、歌手の実力差だけで説明されがちですが、実際には曲の魅力をどれだけ楽器編成側が支えているかという、アレンジの設計にも大きく左右されています。歌唱力に強く依存する曲は、歌が良ければ最高の仕上がりになりますが、歌唱力が並であれば一気に物足りなくなります。逆に、楽器側にしっかりレイヤーを積んでおけば、歌の出来に多少のばらつきがあっても、曲全体の魅力はある程度保たれます。

今回のケースは、まさにこの後者を狙いにいった形です。ハイハットのパターンを変え、サビにパーカッションを足し、キメに薄いシンセを重ねる。どれも単体で聴けば地味な処理ですが、これらが積み重なることで、歌唱力への依存度を意図的に下げることができました。

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