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先日、ある曲の最後のサビを作業していました。最後のサビは、それまでのサビより盛り上げたいけれど、雰囲気はそのまま引き継ぎたい。この「盛り上げたいけれど、同じでいてほしい」という、少し矛盾した要求をどう解決するかで、しばらく手が止まっていました。
結局やったことは単純で、主旋律のオクターブ上を、ハモリとして重ねただけです。これで、しっかり盛り上がりました。しかも、一番耳に残っているはずの最初のサビのメロディを、ちゃんと思い出せる。別のメロディに変えたわけではないのに、同じ系統のまま、もう一段上のサビに仕上がりました。
なぜオクターブを足すと、こんなに都合よくいくのか。これには、人間の音の聞こえ方に関わる、ちゃんとした理由があります。
音楽理論には「オクターブ等価性」という考え方があります。ラの音を基準にすると、その1オクターブ上のラも、2オクターブ上のラも、人間の耳には「同じラ」として認識されます。高さは違うのに、音の名前としては同一だと脳が処理するのです。
これが、今回のハモリで起きていたことの正体です。もし主旋律に対して三度や五度のハモリを足していたら、和音の響きそのものが変わってしまい、聞こえ方の印象がだいぶ変化していたはずです。しかしオクターブ上のハモリは、メロディの音名としては主旋律とまったく同じもの重ねているだけなので、脳の中では「同じメロディが鳴っている」という認識が保たれます。そこに、高い音域が持つ開放感や華やかさだけが上乗せされる。だから、盛り上がっているのに、同じメロディとして認識できる、という状態が作れるわけです。
これは、以前の記事で書いた「懐かしいは知っている、知っているは好き」という話ともつながっています。最後のサビで一番大事なのは、実は新しさではなく、聴き手がすでに知っている一番目のサビを、ちゃんと思い出させることなのだと思います。オクターブのハモリは、この「知っている感覚」を壊さずに、エネルギーだけを底上げできる、かなり都合の良い手段だったわけです。
地味な操作ですが、地味だからこそ、なぜ効くのかを言葉にできると、単なる勘ではなく再現できる技術になります。

