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歌ってみたのMIXを依頼するとき、自分のイメージをどう言葉にすればいいか迷う方は多いと思います。「声をもっと前に」「キラキラさせて」「お風呂っぽく」。どれも気持ちはよく分かるのですが、受け取る側からすると、そのままでは手を動かしにくい言葉です。
私はミックスエンジニア、いわゆるMIX師として、歌ってみたの依頼をたくさん受けてきました。以前、依頼者の言葉を音の言葉に翻訳する話を書きましたが、今回はその逆です。依頼する側が少し言い方を変えるだけで、仕上がりがぐっとイメージに近づく。そんな言葉の選び方を3つ紹介します。全3回の「歌ってみたMIX依頼ガイド」の1回目です。
声が小さいと感じたら:「インストを小さく」と伝える
ボーカルが小さい、もっと前に出してほしい。いちばん多いご要望です。
このとき、エンジニアがやることは単純で、声を大きく、インストを小さくして、相対的に声が前に出るように調整します。ただ、ここに1つ事情があります。私の場合、初稿の時点でボーカルの音量は、ほぼ上限まで上げていることが多いのです。それ以上大きくすると、音が割れたり、全体の音量の基準を超えてしまったりします。
つまり、声を前に出すために実際に動かすのは、インストの音量の方がずっと多い。だから、声が小さいと感じたら「ボーカルを大きくしてください」より「インストを少し小さくしてください」と伝えていただく方が、エンジニアの作業とぴったり重なります。言葉と操作が一致していると、やりとりの回数も減ります。
「キラキラ」「エモく」は、参考曲の該当箇所とセットで
「キラキラさせてほしい」「もっとエモくしてほしい」。気持ちはとてもよく伝わるのですが、こうした言葉だけだと、実はエンジニアは少し迷ってしまいます。言葉が悪いわけではなく、キラキラもエモいも、人によって思い浮かべる音が大きく違う、とても主観的な言葉だからです。
たとえば「サビをもっとキラキラに」とだけ書かれた依頼が届いたとします。高音を明るくするのか、リバーブにきらめきを足すのか、声の輪郭をくっきりさせるのか。エンジニアの頭には、いくつもの候補が同時に浮かびます。どれを選んでも「キラキラ」と言えてしまうので、依頼者のイメージに当たるかどうかは、半分くらい運任せになってしまうのです。
おすすめは、参考になる曲の「該当部分」を探して、一緒に送ることです。
- 自分の曲のどの部分を、キラキラさせたいのか
- 参考にしたい曲の、どの部分がそのキラキラなのか
この2つを時間で指定して伝えるだけで、情報量がまるで変わります。エンジニアは参考曲を聴きながら、「この方は、この音をキラキラと呼んでいるのか」と受け取ることができます。
もう1つ良いことがあります。自分にとってのキラキラを一度具体的に見せておくと、同じエンジニアに繰り返し依頼したとき、覚えてもらえます。そのうち「キラキラで」の一言だけで通じるようになります。曖昧な言葉は、最初に一度だけ具体を見せておけば、2人の間の共通言語に育っていきます。
リバーブは「場所」で伝える
「リバーブを強めに」「お風呂っぽく」。リバーブの量は、数字で伝えにくいものの代表です。いちばん伝わるのは、**場所**で伝えることです。
エンジニアは、職業病のように、音から物理的な場所を感じ取っています。送られてきた音源を聴くと、どれくらいの広さの部屋で録ったのかが分かることがよくあります。部屋にどれくらい物があるか、床が畳なのか絨毯なのかフローリングなのか、布団があるかないかまで、だいたい分かります。リバーブとは、ある場所で声がどう響くかを再現する処理なので、場所の言葉はそのまま設定に変換できるのです。
伝えるときは、誰もが行ったことがあって、響き方をイメージしやすい場所を選ぶのがコツです。
- ライブ会場で歌を聴いたときの感じ
- トンネル、体育館、コンクリートのトイレの中
- 防音室の中、車の中
壁の素材もかなり有効です。コンクリート、木、壁紙、本棚が並ぶ図書館、服屋さん、カラオケ店、ハードオフ、飲食店。それぞれ響き方がまったく違います。
余談:出かけた先で、自分の声を聴いてみる
ここからは少しおまけです。お店や駅、図書館などに出かけたとき、自分の声がその場所でどう響くか、意識して聴いてみてください。
「あのカラオケ店の部屋で歌ったときの響き」「あの図書館で小声で話したときの感じ」。自分の声で確かめた場所を1つ持っておくと、リバーブの依頼が驚くほどイメージどおりに仕上がります。エンジニアに伝える言葉を、自分の耳で集めておくわけです。
伝わらないときは、相性も考える
3つに共通しているのは、自分の感覚を、エンジニアと共有できる言葉に置き換えることです。音量は「インスト」という操作の言葉に、キラキラは「参考曲の該当箇所」に、リバーブは「場所」に。
それでもイメージがなかなか重ならない場合は、感性の相性もあります。合う人、合わない人がいるのは誰のせいでもない自然なことなので、ほかのエンジニアにも頼んでみて、自分の感覚に近い人を探すのも1つの方法です。エンジニアの側も、感覚の合う方と組めた方がうれしいものです。


